雑木の庭・・・植栽で表現するアプローチ
先日完成した「雑木の庭」です。
この住宅はもともとあった古い住宅を撤去し、新たに建て替えたものです。
外構まわりも改修前は前面にブロックが立ち上がり、無機質で閉鎖的で堅い印象を与えていましたので、これを新しい住まいにあわせてつくり直す必要がありました・・・。
出来上がった家はやはり期待どおりの仕上がりで、小さい(25坪)ながらも国産木材や土壁など自然素材にこだわったもので、シンプルで感性豊かなとても素敵な住まいになっていました。しかも薪ストーブがあったり、リビングにつながるウッドデッキなど、エコで開放的な家でもありました・・・。
この家にあまりに無機質な外構は似合いません・・・。
もちろんコストの問題もありますので外柵やガレージなど一部は以前のものを残して再利用しました。 でも、正面にあったブロック積みや門扉は撤去して開放的な「オープンスタイル」にし、道路との段差も緩い傾斜に変えて植栽で処理することにしました。・・・
もっとも重点を置いたのがアプローチです。
敷地は限られていますので、左右に2台の駐車スペースを確保すると正面にはわずかな幅しか残りません・・・。しかも道路から玄関ポーチまではわずか5メートルほどの距離・・・。
でも、これをできるだけ奥行きや広がり、安らぎを感じるアプローチ空間にするのが「造園」の醍醐味、腕の見せどころでもあります。
まず、舗装は道路から玄関先まで緩く勾配をとって、安定感のあるゆったりとした御影石の階段とし、あえて左右にひねったりしています。・・・
さらにこの階段を樹木でやわらかく囲いこみ、木々の下をくぐり抜けていくようなイメージをつくりました。また道路からは樹幹ごしに玄関がチラチラ見える程度にし、アプローチに奥行きや広がりを演出しています。
樹木はソヨゴやシマトネリコ、モミジ、シデコブシ、ハクサンボクなどの幹を見せる雑木類が主ですが、単にまっすぐに立て込むのではなく、傾斜を活かしてあえて自然木のように斜めに寝かせて植えています。
またその脚もとには土留めを兼ねた景石や四季を通じて楽しめる灌木、地被、草花で彩りを添え、ディテールにこだわった演出をしています・・・。
このように同じ敷地ですが、まったく雰囲気が変わってしまいました・・・。
もちろん、建物自体に存在感があり素晴らしい住まいなのですが、でも「家」単体だけではこの雰囲気は表現しきれません・・・。
この事例をみると、たとえわずかなスペースでも「植栽」があることで大きな効用、効果を発揮しうること。また「植栽」による表現力の可能性など改めて感じるものがありました。・・・
よくアプローチの「庭」は家の「顔」とも言われます。
でもそれは単なる家の飾りということではなく、また単に日常の出入口ということでもありません・・・。
もしもアプローチが単調すぎるとどうでしょう・・・。アプローチを通る人にとってはそこには単に見えたままの空間があるだけで、気持ちの変化もほとんど起こりません・・・。
でも、そんな同じ空間でも、同じ奥行きや広さでも、うまく作られた「庭」にはそれをより広く、より長く、そしてより愉しく感じさせるチカラ、気持ちを動かすチカラが生まれるのです。
特に「植栽」はそんな空間をうまく表現できる最強のツールになると思います・・・。
そしてこのようにより広くなり、長くなり、愉しめるようになったアプローチ空間はもはや単なる飾りや通り道ではなく、気持ちをリセットさせたり和ませたり、日常生活の中でさまざまな「付加価値」を与えてくれることでしょう・・・。
意識するしないにかかわらず、この「雑木の庭」が、住まう人また訪れる人に少しでも役に立てれば本当にありがたいことです・・・。
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樹木は植えたばかりでまだまだ枝葉の広がりが貧弱ですが、これから末永くご家族と共に伸びやかに育ってくれるものと思います。
(一期一会に感謝。)