ウワミズザクラと吉野の山林・・・

奈良県吉野の黒滝村に通うようになってかれこれ12年ほどになる。

通うといっても年に数度訪れる程度ですが、誰も住まなくなった古民家をお借りして使わせてもらっています。

地崩れにより山肌が露出したスギヒノキの山林
地崩れにより山肌が露出したスギヒノキの山林

この12年ほどで、黒滝の風景もずい分と変わってしまったように感じます。

それは、人が増えて賑やかになったからというわけでなく、ここ数年来頻発した台風や大雨による激甚災害の影響なのです。

大雨により川は溢れ、橋は流され、山は崩れ、・・・その爪跡を見ると大変な災害であったことがわかります。・・・

黒滝は平地が少なく、狭隘な谷間に挟まれて川に沿って民家が点在していますので、ひとたび川が暴れ、山が崩れるとひとたまりもないのでしょう。地元の方々のご苦労がしのばれます。

小さな沢に出現した巨大な砂防ダム
小さな沢に出現した巨大な砂防ダム

公共事業により急ピッチで災害復旧は進んでいるようですが、護岸はコンクリートでさらに固められ、よく川遊びをした小さな沢だったところに巨大な砂防ダムが出現するなど、大きく風景が変わってしまいました。・・・

仕方がないとはいえ、一抹の寂しさ虚しさがよぎり残念でしかたありません。・・・

黒滝に限らず、日本の多くの山林が戦後復興の名のもと、スギとヒノキに植え替えられてきました。

黒滝でも四方の山々を見渡せば一見緑豊かですが、ほとんどがスギ、ヒノキ林で黒々としていますし、日本全国だと膨大な本数、面積になるかと思います。

昼間でも暗いスギヒノキ林の林床
昼間でも暗いスギヒノキ林の林床

これらの森は一見豊かに見えますが、じつは貧弱な森でしかありません。・・・

スギ、ヒノキの人工林は下層植生が育たないため、生態系の多様化が進まず、保水力、保持力のない土壌になってしまいます。これに、人の手が入らず、間伐すらされないことがこの悪状況に拍車をかけているようで、ひとたび大雨等の災害が起こると崩れやすいのです。

このような災害も、一応は自然災害ですが、大きな目で見れば人災的な側面もあるようで、戦後の復興事業とはいえ日本中にスギヒノキばかりを植えてしまったことは結果的に将来に大きな禍根を残してしまったようです。・・・

災害復旧でその都度巨額を投じてコンクリートで固めていくのも、もちろん大切なこと必要なことなのでしょう。でもそれはどうしても小手先のこと場当たり的な対応に思えて仕方ありません。・・・

産業(お金、仕事)のないところに人も技術、資本も集まりにくいものですが、半ば放置されたこれらスギヒノキを有効活用し、また元の雑木林、多様な自然林に戻していく画期的な妙案はないものでしょうか?

きっとよい解決策があるものと信じたいですね。・・・

大和名所図絵にも紹介される黒滝川の「鎧岩(赤岩)」
大和名所図絵にも紹介される黒滝川の「鎧岩(赤岩)」

 

 

 

 

 

帰路、なぜか急に「ウワミズザクラ」のことが思い出されました。

ウワミズザクラの花
ウワミズザクラの花

この木は12年前に初めてこの地を訪れた時に咲いていたもので、ずい分長く見てないが無事だろうか、ちょうど花の見ごろかなと思い立ち寄ってみました。

普段立ち入ることの無かったキャンプ場の奥の河原にあるのですが、車を降りた途端、目の前の風景に唖然としました。・・・ここでも膨大な土砂が流出、堆積し、流木が折り重なって、河原の風景が一変していたのです。

でも、痛々しく荒れ果てた風景の中、対岸にお目当ての「ウワミズザクラ」が白い花を咲かせているのが遠目にも確認でき、ひとまずホッとしました。・・・

川岸に生えるウワミズザクラ。
川岸に生えるウワミズザクラ。

「ウワミズザクラ」は田舎では特にめずらしい樹木でもありませんが、大阪の街中や郊外ではなかなかお目にかかれません。その白い花はまるでブラシのように房状に付き、いわゆるサクラのイメージとは全く異なります。「イヌザクラ」によく似ていますが、花序枝に葉があるかないかで簡単に見分けられます。

この「ウワミズザクラ」はスギヒノキの森を背景に対岸の土手から川面に向かって突き出すように力強く生えていますが、周りの土はかなり流出し、いずれこの木も流されるのではと心配になります。

大きな自然のなかではこの木はまったく小さな存在なのですが、どこかこの地の自然風景を象徴しているようで、いつまでも存在して欲しいと切に願います。・・・

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