似てる?似てない?・・・ハナミズキとヤマボウシ

blog みどりびんぐ

四季の花木

ハナミズキとヤマボウシ (花水木、山法師)

ミズキ科 ヤマボウシ属

落葉高木 花期:4~5月(ハナミズキ)、5~6月(ヤマボウシ)

ハナミズキの花

「ハナミズキ」と「ヤマボウシ」はともにミズキ科ヤマボウシ属のよく似た近縁の植物で、どちらも春を代表する花木として大変人気のある樹種です。

「ヤマボウシ」は我が国原産ですが、ごく近縁のものが東アジアにも分布していて、「常緑ヤマボウシ」などが近年日本国内でも普及してきています。「山法師」という名はその特徴のある花序を「山伏」の頭巾に見立てたものですが、日本の山野や自然、民俗に永く深く関わってきた本種のイメージとうまく重なるようで絶妙なネーミングだと思います。・・・

一方、「ハナミズキ」は北米原産の植物ですが、1912年にアメリカに贈ったソメイヨシノの返礼として日本に贈られて来たことは有名で、ヤマボウシと似ていることから当初は「アメリカヤマボウシ」などと呼んでいたようです。・・・

ヤマボウシの花

このように出身地は遠く離れている両種ですが、互いによく似た特徴があります。

例えば、両種はともによく似た大きな花序をもっています。4枚の大きな花びらのように見えるのは「総苞片(‘がく’)」で、形が少し違うものの、その中心に本来の「花」が大仏の頭のように集まって付いています。

葉もよく似ていますし、また、枝の伸長がいわゆる「添伸」といわれる「仮軸型」の伸長をしますので、横に広がるような特徴的なよく似た樹形になります。・・・

このように互いに共通点も多く似たような木なのですが、印象、イメージが大きく異なるところもあります。・・・それは、おそらく花の咲く時期が若干ずれていることによるのかも知れません。・・・

ハナミズキの花 紅花種

ハナミズキの花はまだ新葉が展開する前から咲き始めるために、花がひと際目を引いてとても華やかな印象をつくります。樹冠全体が花に覆われ、まさに「花」の「水木」という和名のとおりでサクラの返礼に選ばれたのも尤もという感じです。

一方、ヤマボウシはハナミズキよりも半月ほど遅く、葉が展開したあとに上向きに着花しますので、ハナミズキほどは花が目立ちません。でも、それがかえってこの木の大きな魅力になっていて、鮮やかな花が新緑の中に散りばめられた模様は、清楚でありながら野趣があり、とても見応えがあると感じます。・・・

人によって好みも違うでしょうが、花期のちょっとした違いで印象もずい分と変わるものです。・・・

また、「花」以外にももっと大きな違いがあります。・・・それは「果実」です。

ハナミズキの果実。単果型。

ハナミズキの果実は「単果型」といって一個一個が独立しているのに対し、ヤマボウシの果実は「複合果型」で、たくさんの小果が癒合して、全体で一個の丸いイチゴ状の液果となり生食もできます。・・・この果実のタイプの違いはいったい何を表しているのでしょうか?

果実は種子、つまり子孫を残すためのしくみです。ですから、果実のタイプの違いはいわゆる「種子散布」の手法の違い、つまりは植物の「生き残り戦略」の違いを表しているようです。・・・

大型の総苞片をもつヤマボウシ属の植物は古くは北半球に広く分布していたそうですが、もともとはすべてハナミズキのように単果型だったようです。これらは、種子散布の戦略を「鳥」に託し、鳥に補食されることで種子を散布していたのです。しかし、東アジアでは、500万年前から「サル」と接触することにより「戦略」を軌道修正してサルに捕食されやすい食糧としてより有利に進化する道を選び、長い時間をかけて複合果に変わったといわれています。・・・

ヤマボウシの果実。複合果。食べられる。

しかしその変化はユーラシア大陸だけで、新大陸(北米)では、温帯域にサルがいなかったこともあり、古いタイプのまま保持されてきたと考えられています。・・・

やはり、互いに異なる環境、隔離された環境では違った形態や性質に進化していきますので、両種には大きな違いがあって当然といえるのですが、その割には互いによく似た形質も多く残しているように思います。・・・

似ているようで似てない木・・・興味のつきないところです。・・・

・・・・・・・

余談ですが、両者を比べて私なりの好みを言えば、私は「ヤマボウシ」に軍配をあげたいです。・・・

ヤマボウシの名所や群落は箱根など国内に少なくないと思いますが、私の中のヤマボウシのイメージはなぜか国内ではなく、ずい分以前にドイツ・ハンブルク市の公園で出会ったヤマボウシの印象に深く結びついています。・・・自然木ではなく、もともと博覧会のためにつくられた日本庭園に植えられていたものでしたが、長い年月放置されていたようで、その地に順応して見事な花を咲かせるりっぱな木に育っていました。・・・

残念ながら撮った写真は逸失してしまいましたが、その時の印象は何年たっても忘れられません。・・・数週間その公園で仕事をしていましたので、その間のもろもろの体験や想い出がその存在感のあるヤマボウシの情景とセットになって記憶の底に焼き付いているようです。・・・

「ヤマボウシ」という木には私の中では他にも色んな記憶と結びついていて、なぜか気になる樹木のひとつとなっています。・・・


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