ミモザ?アカシア?・・・木の名前に想う。

最近、よく「ミモザを植えたい!」というお客さんに出会います。切り花やドライフラワーの影響もあるようですが、昨今の人気樹種のようですね。
暖地では3月の声をきくと樹冠を黄金色に彩るミモザ・アカシアですが、その華やかさは他の木にはないエキゾチックな魅力があって人気が高まるのも頷けます。
ただ、とても生長が早く大木になる木なので狭い空間では植えるのに慎重にならざるを得ません。最近は徐々に矮性種も導入されつつあるようですが、狭過ぎる敷地ではできればコンテナ植栽(鉢植え)で楽しまれるのが無難かと思います。・・・

ところで、この「ミモザ」や「アカシア」という名前には意外と誤解や誤用が多く、知らずに呼んでいる人も多いように思います。・・・

まず、「ミモザ」という植物は、正式にはマメ科オジギソウ属(mimosa)の総称のことで、アカシアとは直接に関係のない名前なのです。(語源的にはギリシャ語の”minos”(人真似の意)すなわち、オジギソウの葉が運動するさまからきたもののようです。)

▲ オジギソウ(マメ科オジギソウ属の一年草)

現在、一般にミモザと称しているアカシア類(銀葉アカシアや房アカシアなど)はマメ科アカシア属の一種で、オーストラリアを原産とする常緑の高木です。これが100年ほど前に南フランスに伝わり盛んに栽培されるのですが、これが他に広まっていくなかで”mimosa”と呼ばれたことから誤用が定着してしまったようです。アカシア属の葉は刺激を与えても動きませんが、同じマメ科であり葉も羽状複葉で似ていることから俗称としてミモザの名をあてたようです。・・・

▲ アカシア(マメ科アカシア属の常緑高木)

現在は「ミモザ」といえば本家のオジギソウよりもアカシアのこととしてすっかり定着してしまったようです。また鮮やかな「黄色」を連想させるワードとしても使われるようですね。・・・

なお、「アカシア」は原産地のオーストラリアでは古くから「ゴールデンワットル」と呼んでいるようで、これは初期の移民がアカシアのやわらかい枝を編んだものを”wattle”(いわゆる小舞)として壁材に利用したことによるらしく、

また、日本では在来のネムノキに似ていることから「金合歓(きんねむ)」(黄色のネムノキの意)の別称もあるようです。・・・

▲ ネムノキ(マメ科ネムノキ属の落葉高木)


 

また、「アカシア」にはもう一つ大きな誤解があるようです。

アカシアに似た樹木で「ニセアカシア」をご存知かと思います。日本ではこのニセアカシアをアカシアと呼んだり、逆にアカシアをニセアカシアと呼ぶ人も少なくありません。両種はまったく別の樹木なのですが、いつの間にか誤用、誤解が定着してしまっているようです。・・・

ニセアカシアは同じマメ科の樹木でもロビニア属の落葉樹で、別名「ハリエンジュ」ともいいます。北米原産で明治初期に渡来したようですが、各地に植栽されて今ではなかば野生化しているほど繁殖力の強い樹木で、枝に鋭いトゲがあり、5~6月に白い花序が垂れ下がります。

▲ ニセアカシア、ハリエンジュ(マメ科ロビニア属の落葉高木)

北原白秋の有名な童謡「この道はいつか来た道/ああ、そうだよ/あかしやの花が咲いてる」・・・
などなど、詩や小説、歌謡曲などで様々にうたわれてきた「アカシア」ですが、そのほとんどは本家のアカシアではなく、このニセアカシアのことを指しています。
多くの人がこの花の姿と甘い香りに心ひかれ、愛情をこめてアカシアと呼んできたのですが、姿が似ているからこその誤用なのでしょうか?・・・。そもそもニセアカシアの学名(種名)が”pseudo acacia”といい、まさに「偽の・アカシア」という意味で、この正式名称が誤用を生むきっかけなのではと想像します。

葉や樹姿は似ていても花色が決定的に違うし、常緑落葉の違いもあってだいぶん印象が違うように思うのですが・・・「アカシア」と聞いてどちらを連想するのかは人によって(あるいは年齢や地域によって)マチマチかも知れませんね。・・・


 

全く違う植物なのに、「偽もの」と言われてニセアカシアにとってはたいへん失礼な話ですが、このように植物の名前には人の勝手な判断で不本意なネーミングがされていることが意外と多いように思います。

特に気になるのが「イヌ」の名がつく植物が多いことです。
「イヌ」というのはこの場合、本物に比べて「役に立たない」や「偽もの」という意味を持っています。(植物名における「イヌ」の由来は、「犬」の語には侮蔑の意味があるという説と「犬」ではなく「否(いな)」とする説もあるようです。・・・)

例えば、イヌザクラ、イヌシデ、イヌツゲ、イヌマキ、イヌザンショウ、イヌガヤ、イヌビワ、イヌエンジュ、イヌガシ・・・などなど意外と多くあります。
これらは比較対象の本家に比べて、木材の有用性に劣る、鑑賞性に劣る、食味に劣るなどの理由で「イヌ」と呼ばれているのですが、少し気の毒な気もしますね。・・・

特に近縁種どうしの比較ならまだしも、ツゲ(ツゲ科)とイヌツゲ(モチノキ科)やカシ(ブナ科)とイヌガシ(クスノキ科)、ビワ(バラ科)とイヌビワ(クワ科)など全く関係のない種で比較されて、見た目が似ている(?)と言うだけで「役に立たない」「偽もの」といわれるのはとても気の毒で残念なようにも思います。

もちろん、地方によっては別の呼び名があったり、あるいは元々は違う名前だったものが長い歴史のなかで変化したのかもしれません。・・・

古来より人の暮らしと密接に関わってきた植物への命名は、その植物の特性を知り尽くして使いこなしてきた人々だからこその親しみを込めた評価、表現ともいえますし、同じ「イヌ」でもひとつひとつに違った由来があるのだろうとも思いますので、軽々には否定できないようにも思いますが。・・・

▼ 江戸時代(1828)の植物図鑑「本草図譜」より

話が広がり過ぎましたが、植物への様々な命名は人の感性や暮らし、地域性、歴史などと切り離しては成り立たないもので、コトバ(言語)の変化とともにこれからも様々に変わっていくかもしれませんね。
誤用が変化してそれが新たな本家になっていくのも、単純に否定せず素直に受け入れたいとも思います。・・・

 

関連記事一覧