雑木(ぞうき)の庭づくり・・・狭い庭こそ活かせる雑木の特性

雑木の庭
小さな庭づくり

雑木の庭をつくってみよう。

庭園プランナー・樹木医の塚本です。

昨今、「雑木(ぞうき)」を主体にした庭づくりを求められる方々が増えてきたように思います。
生活の中で自然の心地よさを感じたい。・・・そんな思いかもしれませんね。

 

「でも、うちの敷地は狭くて「雑木の庭」なんて作れそうにないのよね。」と仰る方も・・・

確かに、雑木といえばどこかで見た「雑木林」のあの広々としたイメージが頭の中に浮かびますよね。・・・

「やっぱり無理そう? ・・・。」

でも、もし狭くても我が家に「雑木の庭」が作れるとしたら、素敵だと思いませんか?

たとえ街の真ん中の小庭でも、窓を開けるたび四季折々の風情を味わえたら最高ですよね。

春の新緑の透明感や野趣あふれる花々、夏の木漏れ日の心地よさ、小鳥を呼ぶ小さな実・・・
また、秋の紅葉の移ろいや冬枯れの風情・・・

「雑木の庭」には今ではなかなか感じることが少なくなった季節の移ろいを身近に感じさせてくれる大きな魅力があると思います。・・・

 

「敷地が広くないと雑木の庭は作れない。」と決め付けてはいませんか?

そんな先入観は捨てて下さい。

雑木の特性や使い方を知り工夫をすることで、かえって狭いスペースこそ雑木の特性を活かした庭づくりができるのです。

また、ひと口に「雑木の庭」といっても多様な姿があります。
和風洋風を問わず、庭のテーマに合わせてさまざまなアレンジが可能ですし、アレンジの仕方でさまざまな表情を見せてくれます。

どうか固定観念にとらわれず、あなたなりの「雑木の庭づくり」をしてみましょう!・・・

雑木の庭

ここでは、狭い庭でこそ活かせる雑木の特性とその使い方をご紹介します。

そして、雑木の種類や、そもそも雑木って何?というようなお話も併せてご紹介したいと思います。

1 狭い庭こそ雑木の特性を活かせます!

(1)ポイントは立体的、階層的に空間を捉えることです。

狭い空間でのポイントは庭の空間を「平面的」に捉えるのではなく、「立体的」に捉えていくことです。

単に「平面」として捉えると、木を植えた場所には他に何も置けませんよね。
特に従来の仕立物の木などを想定してしまうとそうなってしまいます。・・・

「立体的」に捉えるというのは、
たとえ木が占有しているスペースでも、木の枝下(下層)には「使える」空間があるのでは?ということです。

そして、それに適した樹形や特性を持っているのがいわゆる「雑木」だということです。

雑木の種類については後述しますが、

下枝が少なく、頭上で枝葉が展開するような樹形の雑木なら、木漏れ日のさす下層に「人の動線(通路)」を確保できますので、立体的で階層的な空間を構成できるのです。

玄関アプローチや駐車スペース、中庭、家まわりなど、根を張れるスペースと日照条件が整えば、その上の空間に枝葉を広げられる場所はいくつかありそうですね。
特にアプローチなど動線と重なるような場所では、樹木の下をくぐり抜けていくような印象を作れますし、狭い場所でも緑のボリュウムを確保できるかと思います。

また、人の動線だけでなく、雑木の足元にはスペースや条件に合わせてさまざまな「灌木」や「下草」を植えられます。

さらに庭のテーマに合わせてオブジェや水盤、ベンチなどの「添景物」を据えればそれだけで絵になる素敵な小庭になるでしょう。


 

 

(2)スペースに応じて複数の雑木を組み合わせて使いましょう。

その場の広さにもよりますが、雑木はできるだけ複数を組み合わせて植えましょう。

なぜなら、大小さまざまに組み合わせることでより自然らしい趣きを作れるからです。

 

雑木林の空間構成・・・

まず、組み合わせるにあたっては自然の「雑木林」の空間構成が参考になりそうです。・・・

手本となる自然の「雑木林」でも、樹木は平面的に立ち並んでいるわけではありません。
高木や中木、灌木、地被などの大きさの違う多種多様な樹木たちが立体的に階層的に住み分けていて、互いに上下左右の枝葉の占有スペースを競い合いながら「共存」してるのです。

雑木林

「雑木の庭」を作るにあたっても、このような雑木林の構成を基本に考えてみましょう。

平面で捉えるよりも、立体的、階層的な空間をイメージすることで、雑木の組み合わせは一気にバリエーションが増えそうですね。

配植のルール・・・

なお、複数の木々を組み合わせていく場合には一定のルールがあります。雑木の庭に限らず、自然風植栽での樹木の配置は「自然な不規則さ」が基本になります。・・・

ただ、このあたりのお話は複雑になりますので詳しくは別稿に改めたいと思います。・・・

 

ここでは基本だけ述べておきますと、まず、樹木を等間隔や左右対称、直線など規則的に並べない。高さも揃えないということです。

さらには、雑木の樹形には一本一本に違った「動き(気勢)」があります。これを組み合わせていくには、実際にはとても複雑かつ繊細な空間づくりになってしまいます。

でも、むずかしく考えすぎる必要は全くありませんよ!

狭い庭にはイメージをつけやすく、まとめやすいという利点もあります。自分のイメージを大事にしながらあれこれと試してみましょう。・・・試行錯誤もまた庭づくりの大いなる楽しみだと思います。

雑木の庭

 

落葉樹と常緑樹の組み合わせ・・・

また、冬季の景色を考えた場合、落葉樹と常緑樹の組み合わせにも配慮が必要です。

敷地に奥行きがあれば常緑樹を奥に置いて背景とし、手前に落葉樹で彩りを作るのが基本です。
でも奥行きに余裕がなければ落葉高木の脇に小さな常緑中木を添えるなどして、落葉樹と常緑樹のバランスに配慮して下さい。

なお、雑木の庭では落葉樹と常緑樹の比率は一般に7:3程度と言われています。でも、このあたりは種々の条件によって変わってくるかと思います。
ただし、少なくとも落葉樹を多くするのを基本として下さい。(単に本数ではなく、緑のボリュウムと考えて下さい。)

 

問題は、極端に狭い場合や落ち葉の問題等で落葉樹をメインにできない場合でしょうか。

こんな時でも、どうしても雑木の庭風にアレンジしたい場合には下記のように配慮して下さい。

■ 狭い庭で、常緑樹メインで雑木の庭をつくるには・・・

1)主木を常緑樹としますが、下記に配慮して下さい。
・落葉樹のようなやわらかい印象の(葉が密集せず、チラチラと奥の空間が透けてみえるような)樹種を選ぶこと。
・その場にマッチした、階層的な空間が作れるような樹形、動きのあるような樹形のものを探し求めること。
・例えば、ソヨゴ、ハイノキ、ヒサカキ、常緑ヤマボウシなど
2)落葉樹は中木や灌木など下層の木として取り入れる。
・配置は常緑樹の手前、あるいは常緑樹の脇に添えるように、鑑賞のポイントとなるように配置する。
・例えば、ヒュウガミズキ、ミツバツツジ、ヤマツツジ、コマユミ、ガクアジサイ、ウメモドキなど

 

できるだけシンプルに・・・

なお、念のため、ありがちな失敗について。

それは、スペースが空いているからといって、むやみに何でも植えてはいけません。

庭の空間構成には必ず「余白」が必要だということです。

「余白の美」といいますか、余白があることで空間に強弱が生まれ、それが庭の広がりや奥行き感、ひいては心地の良さなどにもつながります。あれもこれもと無理に突っ込むのは控えて下さい。

庭の大きさにかかわらず、雑木の庭はできるだけシンプルな方向にもっていく方がうまくいくと思います。


 

2 個体差の大きい雑木の樹形・・・樹形で使い方が変わってきます。

いわゆる雑木は「自然木」ですから、育った環境によってさまざまな樹形をしています。山採りの木などは特にそうですが、同じ樹種でもまったく違った印象を受けることがあります。

便宜上、下記におおまかな樹形タイプを掲載してみましたので参考として下さい。

【タイプA】 アオダモ、シロモジなど、下枝が少なく、スラリとした幹が長く上に伸びるタイプです。

これらは幹の上方で枝葉が広がりますので、下層では枝葉が邪魔になりにくい樹形です。
この特徴を活かすことで、雑木は狭いスペースでも活かすことができます。

【タイプB】 ヤマボウシ、カツラ、エゴノキなどに多い、まっすぐ伸びた幹の上から下まで枝が四方に平均的に広がるタイプです。

整った樹形ですから、庭のシンボルツリーなど単独での植栽に向いています。
これらは広い空間で伸び伸びと育成した樹形といえます。
また下枝をあえて切除することでAタイプと同じように扱える場合もあります。

雑木の庭

【タイプC】 イロハモミジなどのカエデ類に多い、幹が斜めや横に伸びるタイプです。

 

いかにも自然の雑木らしい樹形です。法面や壁ぎわに植えると非常に効果的で、動きのある野趣あふれる景観がつくれます。
ただ、小さすぎる木は横に伸びた枝が動線等に重なったりするので狭い庭では注意が必要です。

※なお、上記A、B2つのタイプの樹種でも木によっては幹が斜めに伸びたりひねったりしたものが多くあり、あえてそのような樹形を探し求めて植えることもあります。

【タイプD】 トサミズキ、ハクサンボクなどの枝が地際から横に広がるタイプです。

樹高自体は大きくならない樹種が多いので、高木に添えたりや高木同士をつなぐように雑木の庭のアクセントとして使います。
これらの木は低い階層で横に広がりますので、動線と重なるような場所には不向きな場合があります。・・・

 

このように樹形のタイプ別に把握しておくことで、その場所に応じた樹種を選ぶ参考になると思います。

ただ、前述のとおり雑木の樹形には個体差がありますので、樹種選びは意外とむずかしい面があるかと思います。

でも、それがかえって雑木の魅力、面白さでもありますのでイメージに合う木をぜひ探してみて下さい。できれば樹種の特長を予め把握したうえで、実際の樹木を見に行くとスムーズに選べるかもしれませんね。

(参照)小さな庭でも使える主な雑木

 


 

3 雑木の庭・・・どこか懐かしい「里山」の風景

「雑木(ぞうき)」とは、狭義にはコナラやクヌギなどの落葉樹を主体とした、いわゆる「里山」を構成する樹種をいいます。
子供のころに親しんだ方も多くおられることでしょう。

私の住む西日本などでは元々の森の姿はカシやクスなどの常緑樹を主体とした、うっそうと生い茂るいわゆる「照葉樹林」です。でも、太古より人が森に関わるようになって森の姿は大きく変わっていきました。

そして人による利用と自然による再生を繰り返しながら、バランスよく長い年月維持されてきたのが「里山」の雑木林なのです。
(近年、人が山を利用しなくなって里山の景観はまた大きく変わりつつありますが・・・)

このように、日本人にとって雑木は昔から身のまわりに当たり前のように生えている樹木でしたから、日本の庭園ではわざわざ植えることは少なかったのかもしれません。・・・(これまでの伝統的な庭園では、モチノキやモッコク、ツバキ、マキなどの常緑樹が中心で、これらは照葉樹林の主要な構成樹種でした。)

戦後、都市化が進むようになってヤマボウシやコブシなどいわゆる「花木」といわれる雑木類がもてはやされ、公園や街路樹、庭園などで盛んに利用されるようになりました。
そしてそれにあわせて多くの花木類が主に公共工事を中心に大量に生産供給されるようになったのです。

でもそれらの樹木は規格(形状寸法)を揃えるために、整然とした「樹木畑」で大量生産されていますので、まっすぐで整った樹形の木ばかりになってしまいます。
したがって、これらの木は昨今人気が高まっている「雑木の庭」のスタイルにはそぐわない樹形のものも多くあるように思います。

近年、生産者の努力もあって徐々に野趣あふれる自然な樹形の雑木も多数供給されるようになってきており、選択の幅も広がってきたように思います。・・・

雑木の樹木畑
雑木の畑、生産地

▲雑木の生産地(樹木畑)風景

余談ですが、作っている庭にぴったりの雑木を探し求めて、広大な樹木畑を徘徊することがよくあります。

このような樹木畑はさまざまな樹種が混ぜて不規則に植えられていますので探すのに大変骨が折れます。でも、思わぬ宝物のような木に出会うこともあってそれがまた大きな楽しみでもあります。・・・

小さな庭づくりをする場合、狭いがゆえにディテールへの配慮は必須です。

特に空間の骨格をつくる樹木はよく吟味します。
雑木類は一本一本個性の違いが大きいので、その場にあった枝ぶり、樹形のものを探してくる労力を決して惜しんではいけません。・・・


 

4 まとめ

狭いスペースで「雑木の庭」を楽しむには、まず立体的に階層的に捉えることと、それに適した雑木を選ぶことが基本と言えそうです。

もちろん、庭づくりは単純ではありません。

他のさまざまな要素(日当たりや土壌、周りの環境など)が複雑に関わってきます。でも、それぞれに工夫をすることでまさに各人各様の庭ができると思いますし、それがまた面白いところと言えそうですね。

あなたの庭にも雑木の庭は作れそうですか?

どうか先入観にとらわれず、あなたなりの、あなただけの「雑木の庭づくり」にぜひ挑戦してみて下さい。


(雑木の庭づくり、狭い庭)


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