人を魅了する美しい葉・・・アオキ

アオキ(青木) ミズキ科・アオキ属、常緑低木

昔も今も庭木でよく使う樹木にアオキ(青木)があります。・・・

当たり前のようによく目にする木ですが、改めて観察してみるとその深みのある厚手の青葉には、他にはない何か神秘的な存在感があります。また、秋から冬になると艶のある赤い実を色づかせ、これらの葉と実の見事なコントラストには人目を引きつけるに十分な魅力があるように思います。・・・

 

ところで、アオキの学名(属名)は「Aucuba(ラテン語)」といいます。これは18世紀、幕末に来日した植物学者によって命名されたものですが、その名はアオキの地方名「青木葉(アオキバ・日本語)」をそのまま取り入れたようですね。・・・

ツバキやアジサイなど日本産の植物で古くから欧米人に見いだされ、欧米に渡って盛んに品種改良された植物はいくつかありますが、アオキもまたその代表格といえます。なかでもアオキは花ではなく葉と実の鑑賞価値が認められたもので、欧米で斑入り品種が盛んに改良、作出されました。今ではカラーリーフの定番となって世界中の日陰の庭を鮮やかに彩っているのは誇らしいかぎりです。・・・

アオキ

艶のあるアオキの葉は変化が多様で、斑の入り方にも覆輪や散り斑など種類が多く、また葉形も狭いものや幅広いものなどいろいろあって見る者を楽しませてくれます。特に日陰の庭づくりでは欠かせない主役、彩りとして大変重宝する優れた樹種といえます。・・・

以前、仕事で渡独したときにも印象的な光景がありました。薄暗い公園の樹林下で、同じく日本産の世界に誇るカバープランツ「フッキソウ(富貴草)」が一面に広がる中に、1本の斑入りのアオキがまるでスポットライトに照らされたかように光り輝いて見えたのを今でも覚えています。・・・その時欧米人を夢中にさせた理由が少し理解できたように思ったものです。・・・

 

ところで、アオキが「雌雄異株」だと知らない人が意外と多いように思いますが、18世紀に欧州に渡ったのも最初は雌木だけだったようです。もちろん雄木がないので実は成りませんし、ようやく雄木が渡るのは80年くらいたってからだというのを聞いたことがあります。花は特に地味でしかも実のならないアオキなのに、とても人気があって挿し木などで盛んに繁殖されたというのが少し不思議でもあったのですが、やはり基本種の緑葉だけでなく当初より綺麗な斑入り種があってそれが選ばれて渡っていったようです。・・・

こういう仕事をしていると単に「花」が美しい樹木だけでなく、「葉」や「実」に魅力を感じるようになるのは不思議です。特にアオキは「葉」や「実」の美しさに特化したような魅力があり、他にない鮮やかさ、そしてなぜか神秘的なものを感じさせてくれるのです。


アオキは主に西日本の暖温帯林の下層に生える常緑低木ですが、古くから日本の民俗との関わりも深いようで、民間薬の原料や家畜の飼料など人々の暮らしにも利用されてきたようです。・・・

また、余談ですがアオキの変種に小型の「ヒメアオキ」があります。これは主に北海道南部~本州日本海側の寒い多雪地帯に自生しています。
本来、アオキは暖温帯の常緑樹で強い寒さは苦手なはずなのですが、ブナなどの落葉樹林の下層で雪に埋まって冬を越すことで生き残り、寒冷地へも分布を広げてきたようです。雪そのものは冷たいのですが、あえて雪の下に埋まることで寒風を遮り、かえって寒さを凌げるというのは面白いですね。

このように暖温帯の常緑樹のうち、その変種が北や山地の寒冷地で雪に埋まって冬を越すものに、ユズリハの変種で「エゾユズリハ」や、ヤブツバキの変種で「ユキツバキ」などがあり、いずれも母種よりも小さくなるのが特徴のようです。・・・

 

普段何気なく見ている庭木でも、厳しい生存競争や人間との関わりのなかで翻弄され、変化しながら今があるのだと知ると、見慣れた庭木もまた新たな付加価値を得て違った姿に見えてくるから不思議です。・・・


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