衰弱著しいモチノキの治療、保護

樹木医:診断治療活動

個人邸  モチノキ 樹勢回復

樹種名  モチノキ (モチノキ科)  樹高6.5m、幹周1.7m、枝張3.0m 


概  況

旧家に数世代にわたって維持されてきた老木である。

根元周りの改変や不適切な剪定等が繰り返されて衰弱し、痛々しい樹姿をしている。 近年、特に樹勢の衰えが顕著となり回復作業を実施。

モチノキ治療

▲  ※衰弱著しいモチノキ。 ※調査、診断報告書図面(部分)

 

(以下、調査報告書より抜粋)


総合診断


周辺環境の影響

当該樹木の周辺は塀と家屋、道路等に挟まれ植桝面積(露出部)は極端に少ない。

根系、根株、根元土壌の状況

人止めのフェンスがあるため踏圧による土壌の固結は少ない。土質は表層20~25cmは砂質土、下層は黒色粘質土。 試掘範囲内では樹体を支持する太根は見当たらない。吸収根(細根)も多くない。植桝外にもある程度伸張しているものと思われるが確認はできない。 過去の増設工事等に伴う不適切な根系切除により根株腐朽が著しく進行し、大きな開口部がある。開口部3ヶ所、根株全周の1/3が開口している。残った根株は薄い樹皮部分のみで、端部は癒合組織が巻き込んで(ラムズホーン)、樹体支持力を高めているがいかにも弱々しく倒木が危惧される。 さらには根株から幹上部へ腐朽(空洞化)が大きく広がっている。 過去に根元の開口部をコンクリートにて閉塞しているが、押し出されて剥離している。(時期不明)

大枝・幹の状況

過去の大枝の折損に起因する幹腐朽(空洞化)が進行。幹はほぼ空洞化している。 また、樹冠上部では不適切な強剪定に起因すると思われる大枝の腐朽や枯れ下がりが著しく進行。

枝葉の状況

梢端からの枯れ下がりが見られ、枝葉の活性はかなり低い。落葉により葉量が極端に少なく、脇芽の葉がわずかに残る程度。なお、枝葉に病虫害は特に認められない。

総合判定

地上部の衰退、活力低下の要因は、第一に塀や家屋、舗装等の増設工事に伴う根系の損失、有効土層(根域)の極端な減少などによって、樹体の大きさや枝葉の量、成長量に見合うだけの根量、生育環境が確保されず、根系の養水分の吸収機能の低下が徐々に進行したこと。 さらには、過去に大枝が大風など何らかの理由により分岐部から折損しその折損痕から腐朽が進行したこと。また、過度の強剪定が繰り返されるなど不適切な剪定により活力低下を助長したこと等が主な要因として考察される。 それらの要因に加えて、夏の少雨乾燥などの天候不良が引き金となって衰退が顕著に現れてきたものと推察される。 治療および保全の方針としては、まず倒木の恐れがあるため樹木の支持が急務であり、併せて樹勢回復のために土壌改良および有効土層の拡張が望まれる。

モチノキ治療

▲  ※幹および枝の腐朽部  ※コンクリートによる閉塞は撤去。

 

 

治療処置作業


周辺環境の整備

樹木のためには有効土層(根域)の拡張が望まれるが、四方を堅牢な構造物で完全に囲まれている現状では難しく、今回は特に処置はしない。

土壌改良、発根促進

全面改良はかえって既存の根を痛める恐れがあるので、つぼ穴の穿孔による部分的な改良(完熟堆肥等の投入)により新たな発根を促す。また、土壌に樹木活力剤を高圧にて灌注し、併せて土壌の膨軟化をはかる。

樹幹部の処置

狭義の外科(腐朽部の切削や空洞部の充填、開口部の閉塞)は効果が望めないので行わない。樹勢を回復させて腐朽に対する抵抗力を高めるようにする。

支柱の設置

狭小地のため通常の支柱設置が難しい。丸太材により「やぐら」を組んで支持することとする。

その他

開口部を閉塞していたコンクリートは除去。根元周りに散在していた石材の撤去。

経過観察・保全計画

しばらくは剪定を控える。とりあえず枝葉を増やして樹勢の回復をはかる必要がある。また夏季の乾燥に注意を要する。支柱は将来的には点検や補修、補強が必要。   ( → その後、枝葉が再展開。さらに経過観察を要する。)

 

モチノキ治療

▲  ※支柱(やぐら組み) ※土壌灌注作業

 


(樹木医、樹木診断・治療、大阪)


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